150㎡ほどの長方形のフロアに隙間なく長机が並び、約200人の中高年が座っている。机には電話が1台ずつ。フロアの端々で目を光らせる自分の子供ほどの若いスタッフに監視され、黙々を電話勧誘を続けている。「まるでブロイラー小屋みたいだ」。
2010年7月、会社からの命令でその現場に送り込まれたD氏(46歳)はまずそう思ったという。1991年に大手不動産会社に就職し、主に情報システム部門で19年間働いたD氏は、2008年のリーマンショックを機に資本関係のない生命保険会社に出向を命じられ、保険営業の部署に配属された。
歯を食いしばって頑張った2年後、営業販売支援会社に再出向。東京都内のターミナル駅から徒歩5分。雑居ビルの1フロアで電話勧誘をしながら、D氏はそこが「中高年の最終処分場」あると知る。「勤務中の私語が禁じられているが、隙を見て周囲に聞くと自分と同じような境遇の人ばかりなんです」(D氏)
拘束時間は午前9時から午後6時で、勤務中はトイレに行くにも許可が必要。手を休めるとスタッフから手を休めれば監視スタッフの罵声が飛ぶ。扱う商品は週替わりで30万円の英会話教材など売れない商品ばかり。1日200件電話をしても話を聞いてくれるのは1~2件。成約することはまずない。D氏によればスタッフの目的は「送り込まれた人を精神的に追い詰めること」であり、「1人辞めるごとに依頼企業から報酬が出る仕組みになっているのだと思う」と答えている。ガン療養中の母親を扶養しているD氏は、会社にしがみつくしかなかった。
(日経ビジネス2012.6.18号より抜粋)